望の淵 #01 永遠のGW

1年後の5月6日

白く、静かな病室。

時計の針がゆっくりと進む音だけが、空気を刻んでいる。

そのベッドに、安見手 眠流はいた。

目を閉じ、呼吸器の音に合わせて微かに胸が上下しているだけ──昏睡状態だった。

窓から差し込む柔らかな光が、彼の顔を淡く照らしている。

その脇に、一人の男が立っていた。

白衣姿の中年紳士。

ネクタイを締め、髭を整えた、望淵 福介

誰に話すでもなく、誰にも届かない声で、彼は呟いた。

「……望んだんですよ、“ずっと休みたい”と」

「ええ、その願い、確かに叶えましたとも。

 ですが、“願い”というのは時に、呪いと変わらぬものです」

望淵は一歩、ベッドに近づいた。

そして、うっすらと笑う。

「努力も、失敗も、痛みも──何もない日々が、

 果たして“幸福”と呼べるのか……それは、本人にしかわかりませんがね」

彼はそっと帽子のつばに触れ、振り返る。

「ふぉっふぉっふぉ……それでは、私は次の実験対象へ」

ドアを開け、病室を後にする白衣の背中。

その足音も、やがて無音の中に吸い込まれていった。

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