Mortals~死に損ないの英雄道~:第1話『契約』

Mortals~死に損ないの英雄道~:第1話『契約』

とある古ぼけたアパートの一室で、僕は今まさに首吊り自殺を実行中だった。

沖波
ぁ…あぁ…し…しぬ…苦し…い……。

首には縄が食い込み、意識は朦朧としている。頭の中はぼんやりとしており、意識は飛びかけている。何も冷静に考えられない。それでも生存本能が働いたのだろうか、無意識に僕の両手は首にかかった縄をほどこうと足掻いていた。

沖波
はあ…はあ…はあ…はあ…はあ…はあ…はあ…はあ…はあ…

数分後、何とか首の縄を外した僕は、そのままベッドへと横たわった。呼吸が苦しい。白目の部分は赤く染まっている。首には生々しい絞め跡が残っている。体は動かない。涙が溢れてくる。

沖波
くそぉ…こんな…情けない…死にきれないなんて…くそぉ…

僕は絶望した。生きることに疲れたこの世界で、結局死ぬことも出来ない自分に絶望した。

ここまでの人生を振り返ってみると、自分に対して絶望することばかりであった。

まず小中学生時代には、いじめが横行していたのにも関わらず僕は見て見ぬふりをしていた。自分に被害が及ばないように徹底して知らん顔をしていた。

その内いじめられていた女子は自殺してしまった。不憫には思ったが、さして悲しむでもなく、自分には関係ないことだという意識であった。

次に高校時代の事だ。ある日他校の不良に絡まれた事があった。殴られたので、正当防衛という言葉を覚えたての頃であった僕は、不良3人組を必要以上に殴り蹴り返した。鼻の骨を折り、目を潰し、顎を砕いてやった。『もう許してくれ…。』と言われたので、あばら骨を折った後に家路へと帰った。『次見かけたら殺す。』と念押しをした。

その後風の噂で聞いたところによると、彼らは不登校になってしまったらしい。やりすぎてしまったことに対して、何も反省してなかった僕は、どころか悪を成敗したと胸を張っていたくらいだ。

そして大学の頃。初めて彼女ができた僕だったが、思春期真っ盛り、彼女に対してカラダを求めすぎてしまい、当然ながらフラれてしまった。日にして3ヶ月。自分の欲望に任せてどれだけ傷つけてしまったのか、その頃は考えもせず次の女の子を探すのに必死であった。

大学卒業後、社会人になってからは責任の重さに耐えられなくなってすぐに辞めた。その後はずっとフリーター生活を続けていた。だが周りからは哀れみの目で見られ、そこから人と関わるのを辞めた。

そんなある日、ネット上でとても魅力的な女性と知り合い、仲良くなり付き合うところまでいっていたが、結局フラれて他の男のところへ彼女はいってしまった。

現在全てが嫌になり無職になり、今までの自分の振る舞いに絶望し、ついには自殺を決行したというわけだ。

沖波
今思い返してみても、つまらない人生だったな。

と、やはり死を選ぶことは正解だったと納得した僕は、日を改めてまた自殺をしようと思っていた。しかし身体に刻み込まれた恐怖は拭えそうにない。やるなら一発で決めるべきだったのだ。

沖波
あぁ、寝たらそのまま起きず黄泉の国へと旅立っていないかな。

そう思い、首吊りで疲れた身体を休ませようと目を閉じたその時であった。

???
おい死に底ない、その命交換してやろうか?

目の前に黒衣の女性が立っていた。瞳は赤く、髪色は漆黒。この世の者とは思えない、神秘的な雰囲気を纏っていた。

沖波
うわっびっくりした…いきなりなんだお前は!誰なんだ?どうやって入ってきた?
???
質問を質問で返すな愚か者め。
沖波
(なんて高圧的な奴…)質問…命を交換…だっけか?突飛すぎて意図がわからない。
???
ああ悪ったな。貴様の命と交換に私が異能力を授けてやると言っている。
沖波
異能力…?どんな能力なんだ。そもそも命と交換っていうのはどういう意味なんだ。
???
どんな能力かは我にもわからぬ。ランダムじゃ。命と交換とは言葉通り。貴様は1年後に確実に死ねる。その代わりに特異な能力を我が授ける。ギブアンドテイクじゃな。
沖波
にわかには信じられない話だな。まぁ、死にたがっている僕にとってはギブアンドギブになるけどな。というかなんで僕なんだ?。
???
質問が多いやつじゃのお。貴様が条件を満たしたからに決まっておろうが。
沖波
その条件ってなんだ?
???
別に貴様を選んだわけではないわ。一度肉体から魂が抜けかけた人間のみが対象だ。たまたま貴様が該当しただけのこと。
沖波
つまり、死にかけ。今まさに自殺未遂をした人間限定ってことか?
???
有り体に言えばそうなる。して、そろそろ結論は出たか?不要というならば他に行くまでじゃが。
沖波
(なんて高圧的な奴…)この上なく怪しいが…死ねるというのは魅力だ。わかった、契約しよう。
???
承知。ではここに契約は完了した。

女の全身に赤い閃光が走る。その手で僕の心臓を掴まれた、鎖を巻かれたような感覚がした。僕は薄れゆく意識の中、最後に彼女が発した言葉を耳にする。

???
まあせいぜい残り少ない余生を楽しむが良い。死に底ないよ。

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