とある古ぼけたアパートの一室で、僕は今まさに首吊り自殺を実行中だった。
首には縄が食い込み、意識は朦朧としている。頭の中はぼんやりとしており、意識は飛びかけている。何も冷静に考えられない。それでも生存本能が働いたのだろうか、無意識に僕の両手は首にかかった縄をほどこうと足掻いていた。
数分後、何とか首の縄を外した僕は、そのままベッドへと横たわった。呼吸が苦しい。白目の部分は赤く染まっている。首には生々しい絞め跡が残っている。体は動かない。涙が溢れてくる。
僕は絶望した。生きることに疲れたこの世界で、結局死ぬことも出来ない自分に絶望した。
ここまでの人生を振り返ってみると、自分に対して絶望することばかりであった。
まず小中学生時代には、いじめが横行していたのにも関わらず僕は見て見ぬふりをしていた。自分に被害が及ばないように徹底して知らん顔をしていた。
その内いじめられていた女子は自殺してしまった。不憫には思ったが、さして悲しむでもなく、自分には関係ないことだという意識であった。
次に高校時代の事だ。ある日他校の不良に絡まれた事があった。殴られたので、正当防衛という言葉を覚えたての頃であった僕は、不良3人組を必要以上に殴り蹴り返した。鼻の骨を折り、目を潰し、顎を砕いてやった。『もう許してくれ…。』と言われたので、あばら骨を折った後に家路へと帰った。『次見かけたら殺す。』と念押しをした。
その後風の噂で聞いたところによると、彼らは不登校になってしまったらしい。やりすぎてしまったことに対して、何も反省してなかった僕は、どころか悪を成敗したと胸を張っていたくらいだ。
そして大学の頃。初めて彼女ができた僕だったが、思春期真っ盛り、彼女に対してカラダを求めすぎてしまい、当然ながらフラれてしまった。日にして3ヶ月。自分の欲望に任せてどれだけ傷つけてしまったのか、その頃は考えもせず次の女の子を探すのに必死であった。
大学卒業後、社会人になってからは責任の重さに耐えられなくなってすぐに辞めた。その後はずっとフリーター生活を続けていた。だが周りからは哀れみの目で見られ、そこから人と関わるのを辞めた。
そんなある日、ネット上でとても魅力的な女性と知り合い、仲良くなり付き合うところまでいっていたが、結局フラれて他の男のところへ彼女はいってしまった。
現在全てが嫌になり無職になり、今までの自分の振る舞いに絶望し、ついには自殺を決行したというわけだ。
と、やはり死を選ぶことは正解だったと納得した僕は、日を改めてまた自殺をしようと思っていた。しかし身体に刻み込まれた恐怖は拭えそうにない。やるなら一発で決めるべきだったのだ。
そう思い、首吊りで疲れた身体を休ませようと目を閉じたその時であった。
目の前に黒衣の女性が立っていた。瞳は赤く、髪色は漆黒。この世の者とは思えない、神秘的な雰囲気を纏っていた。
女の全身に赤い閃光が走る。その手で僕の心臓を掴まれた、鎖を巻かれたような感覚がした。僕は薄れゆく意識の中、最後に彼女が発した言葉を耳にする。