外は雨。春を告げる桜もこの雨では散ってしまうのではないかと僕は心配していた。
涼風七楓と藤宮莉璃と別れて一週間が過ぎ、あれから僕はなにをするでもなく日々を過ごしていた。ニュースでは連日、物騒な事件を報道している。
汚職に手を染めている政治家、薬物取引を行っている暴力団、指名手配中の犯罪者、黒い噂の絶えない実業家など、いわゆる悪人や罪人と呼ばれる者たちが次々と暗殺された。
犯人は捕まっておらず、ネットではこの一連の事件を起こした犯人(グループ)を、ローマ神話に登場する正義の女神から”ユースティティア“と名づけて騒いでいた。
“悪を根絶やす“、そう言っていた涼風七楓の仕業に違いないと僕は推察していた。
他にも、模倣犯とみられる事件がここ最近、多発している。
いくつか例をあげるとブラック企業と呼ばれる、長時間労働を強いる会社が横行しているが、それらの社長や幹部が暗殺される事件や、ホームレス狩りをしていた非行少年を殺害する事件、虐待を繰り返す親を殺害する事件、いじめグループを皆殺しにする事件も起こっている。
いずれも犯人が捕まっていないところが不気味である。
僕はネットで一通りニュースをチェックしていると、あることに気がつく。
それは、”ユースティティア“やその模倣犯とみられる事件とは、一見関係がないと思われる連続通り魔事件の被害者の名前だった。
今から15年前、当時中学生だった僕の学校では、いじめが行われており、その主犯格となる人物たちの名前であった。
さらに事件について調べていくと、僕は青ざめた。
そう、主犯格だけでなく当時同じクラスだったクラスメイトも続々と殺害されていたのである。
そして、僕もそのクラスメイトの一員だった。
とりあえず僕は、眠っていた記憶を呼び戻すことにする。
当時いじめられていた人物のことについて思い出す。
卒業アルバムなどもはや残っておらず、自分の頭の中だけが頼りであった
僕は思い出した。
当時彼女が壮絶ないじめにあっていたことを。僕は関わりたくないから見てみぬふりをしていたことを。
その後、神崎明日奈は自殺した。
今日のような雨の日、彼女は海へと飛び込んだのだった。
当時、いじめの事実は確認されなかったと学校側は発表していたのを覚えている。
<ピンポーン…>
突然、僕の部屋の呼び鈴が鳴る。
時刻は午前3時。
こんな時間に鳴るはずもない呼び鈴が
<ピンポーン…ピンポーン….ピンポンピンポンピンポンピンポーン…>
狂ったように鳴り響く呼び鈴。その内ドアをたたく音がしてきた。
<ドン…ドンドンドン…ドンドンドンドンドンドン!!>
僕は身構えた。決してドアの鍵を開けることはないが、ドアの前に立っている人物に警戒した。
しばらくすると、音が鳴り止んだ。
僕は恐る恐るドアに近づき、除き穴を除いた。
刹那、”パリーーンッ”と窓ガラスが割れる音がした。
振り返ると、ガラスは粉々、壁に大量の穴が空いていた。
よく調べてみると、壁にめり込んでいたのは、無数のパチンコ玉だった。
ドアの方に向かっていなければ、間違いなく蜂の巣になっていた。
誰かが僕の部屋がある古いアパートの三階目掛けて階段を駆け上がってくる音が聞こえた。
部屋の前でその人物は止まると、ドアが音を立てて崩れた。
傘がドアを突き破っていた。
ありえない光景に目を奪われながらも、僕は咄嗟に異能力を使い、玄関に冷蔵庫や洗濯機、ベッドなどを瞬間移動させ壁をつくった。
すると破壊されたドアから一人の人物が部屋へと入ってきた。
銀髪の少女は僕も睨むと、殺意を全開にしてそう言い放ち、ポケットから何かを取り出した。