Mortals~死に損ないの英雄道~:第6話『家出と再会』

Mortals~死に損ないの英雄道~:第6話『家出と再会』

廃マンションでの一件から30分後、私は自宅前へと辿り着いた。時刻は明朝、既に両親は起きているかもしれない。玄関から入り、返り血を浴びたこの服を見られるのは非常にまずい。

藤宮莉璃
そうだ…。さっき手に入れたこの能力で2階にある私の部屋に入ろう。

私は、廃マンションでの一件の際に黒衣の女に与えられた”瞬間移動”能力を使うことにした。カーテンが開き丸見えになっている自室をじっと見つめ念じると、一瞬で自分の部屋にワープしていた。すぐに服を着替え、ベッドで一休みすることにした。

数時間が経過し、母が階段をのぼり起こしに来た。

藤宮母
莉璃、帰ってるの?大事な話があるから降りて来なさい。

私は、『はい。』と、不安でいっぱいになりながら返事をした。

藤宮母
昨夜はどこへ行っていたの?何の連絡もなしに、どれだけ迷惑かけたと思っているの!
藤宮莉璃
ごめん…なさい。
藤宮母
受験に失敗して、その上夜遊びをする不良行為?これ以上近所の評判落とすなら出ていって!

私は何も答えることが出来なかった。
まさか自殺を決行しようとしていたなんて口が裂けても言えなかった。

藤宮母
だいたいろくに勉強もせず、前から遊んでたんじゃないの?だから受験も落ちるのよ!
藤宮莉璃
違う!!結局…、私よりも世間体の方が大事なのねお母さんは!
藤宮母
生意気な口を!

と、母から強烈なビンタが飛んできた。良い子を演じ続けてきた私にとって、これが初めて受けた母からのビンタであった。

藤宮母
今まであんなにいい子だったのに!急にどうしちゃったのよ!
藤宮莉璃
急にじゃない…!ずっと無理してた…!

涙目の私は、2階の自分の部屋へと駆け上がり、スーツケースに必要な荷物を詰めることにした。

藤宮母
ちょっと!まだ話は終わってないわよ!

3分程して、私はスーツケースを引きながら再び一階にいる母の元へと訪れた。

藤宮莉璃
さようなら。今までお世話になりました。お望み通りこの家を出ていきます。
藤宮母
莉璃!!待ちなさい!

母の制止を振り切り、私は玄関を飛び出し、行く宛もなく駅前へと駆けていった。とりあえずは駅前の漫画喫茶に入り、まだ疲れが残る体を休めることにした。

3時間程眠った後、ドリンクバーから持ってきたカフェオレを片手に、今後の方針を考え始めた。

藤宮莉璃
勢いで出てきたのはいいけど、これからどうしようかな~。貯金は心許ないし、とりあえずはバイトかな。

学生であった為、貯金は数ヶ月も生活すれば尽きる額しかなかった。折しも目の前にはパソコンがあるので、インターネットを使って求人募集を検索した。

【英雄になろう!何でもお悩み解決 涼風相談所 2名募集】
藤宮莉璃
英雄…はどうでも良いけど、このハートマーク。私の左胸に刻まれているのとそっくり。場所も隣駅で近いし、見るだけ見に行ってみようかな。

電話をかけると、その話し方から品格を感じる女性が出た。いつでも訪れて良いと言うので、お言葉に甘えて早速午後から訪れることにした。

着いてみると古ぼけた雑居ビルの四階であった。ドアに近寄ると何やら声がした。

『やめてくだ…』『遠慮せずに…』

どうやら男性と女性の二人で何やら一悶着起こっているようだった。

藤宮莉璃
お取り込み中かな、また後で来ようかな…

と、帰ろうとしたその時、私にとって聞き捨てならないワードが耳に入ってきた。

『あなたその胸のハートマーク…』

藤宮莉璃
ハートマーク!?

私は思わず声を荒げ、ドアを開けて中へと入ってしまった。そこには、私と同じく左胸にハート型の入墨が入った半裸の男性と、それを見て驚いている様子の女性が立っていた。

涼風七楓
どなた?!
藤宮莉璃
あ、あの私は先程お電話させていただいた、藤宮莉璃と申します。
沖波
どうも…これはあの、誤解しないで欲しいんですが、僕が半裸なのは今しがたこの方に汚れたシャツを脱がさ…ってあれ?君は!!
藤宮莉璃
あなたはあの時の…!やっぱりそうだったんですね。あの時の奇妙な現象とそのハートの入墨、あなたも…
沖波
あなたも…?!ってことは何か、君もその…。
涼風七楓
ちょっとよろしいですか。あなた達二人は知り合いということでしょうか。それに”あなたも”ってことは、藤宮さんも同様にハートの入墨があるということでしょうか。
藤宮莉璃
…。えぇ、はい。
涼風七楓
まさか1日で二人も見つかるなんて驚きを隠せません。とりあえず沖波さんは、代わりのこのシャツを着て下さい。
沖波
はい…。どうも…。
涼風七楓
さあ藤宮さんもお掛けになってください。

私は何が何だかわからないまま、昨日奇妙な力で助けてもらった沖波と呼ばれた男の隣に腰を掛けた。

涼風七楓
改めまして、私が所長の涼風と申します。お二人とも、そのハート型のタトゥーはいつから?
沖波
僕は昨日から…。
藤宮莉璃
私は昨日の深夜から、正確には今日になります…。

沖波は驚いた表情でこちらを見ている。

沖波
君まさかあの後…。
藤宮莉璃
えぇまぁ…はい。

沖波が言わんとしていることがわかった。そして私も沖波が何をしたのかが予想できた。きっとこの男も私と同じく自殺未遂をし、例の黒衣の女から異能力を授かったということだろう。

沖波
涼風所長、あなたもハートマークをこの相談所のシンボルに掲げているということは、僕達と同じということですか?

涼風所長は一瞬、憎悪に満ちた表情になったがすぐに切り替え、話し始めた。

涼風七楓
いいえ、こうして実物を見るのは初めてです。しかし、その存在は知っていました。
藤宮莉璃
知っていた、と言うと知り合いにいたと言うことですか。
涼風七楓
いいえ、私の妹がそのハート型のタトゥーを持つ人物に…殺されました。彼女の最後のダイイングメッセージがそのマークだったというわけです。

場の空気が凍りついた。会ったばかりだというのに、彼女にとってとてもデリケートな質問を私はしてしまった。

涼風七楓
求人募集の画面に例のハートマークを載せたのも、なにか手掛かりが欲しかったという事情もあります。お二人を試すような真似をして申し訳ございませんでした。
藤宮莉璃
いえいえ。それよりも私もいきなり変な質問をしてしまってすみませんでした。
沖波
僕も事情も知らず、ごめんなさい。
涼風七楓
お二人が謝ることはないです。逆に変な空気にしてしまってごめんなさい。最後までちゃんとお話しますわ。

すると彼女は、重々しい口を開き、恐らく思い出したくもないであろう過去を語り始めた。

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