目が覚めると私は、男女二人ずつの四人組に取り囲まれ部屋の一室で縛られていた。
男の気に障ったのだろうか。乱暴に私の胸ぐらを掴んできた。そして私をにらめつけながら脅すように言葉を続けた。
下衆な会話で盛り上がっている四人組。聴いているだけで不快になりそうになる。私はこの空間から一刻も早く抜け出したかった。
そう言って私の服を脱がせようとしてくる一番大柄な男。にやついた顔が生理的に受け付けなかった。
着ていたブラウスを破られ、下着があらわになった私の左胸には、見に覚えのないハート型の刺青が浮かんでいた。
女が私の腹に蹴りを入れてきた。私は血を吐いた。それを見て楽しげに笑っている周りの連中。このままこいつらに陵辱されるのかと思うと、先程死にきれなかったのが余計に悔やまれる。
その瞬間、私の左胸の入墨が赤く光った。
叫び声とともに大柄の男が倒れる。彼の背中にはナイフが深く刺さり、出血が止まらなかった。
続いてリーダー格の男が倒れた。腹には刃渡り40cmの包丁が刺さっていた。
返り血を浴びた私は、不気味な笑みを浮かべながら残りの二人を見た。
続いて懇願する女二人の頭を、私はバッドで殴り倒した。四人は無残な姿で床へ伏した。
私は立ち尽くした。目の前の惨状を、たった今自らの手によって起こしたことが俄には信じられなかった。
しばらく呆然と立ち尽くしていた私は、冷静に自分の身に起きた事を振り返っていた。
4人組に陵辱されようとしたまさにその時、私の視界にはキッチンに置いてあったナイフと包丁が目に入った。
(あの場所に行きたい。)
そう思った時には、既にキッチンの前へ私は立っていた。即座にナイフと包丁を手に取ると、背後から大柄の男をナイフで刺し、続けてもう一人の男を正面から包丁で刺した。
その後、部屋の端においてあったバットのところへ瞬時に移動し拾い、女二人を殴り倒したというわけだ。
思い当たる節と言えばただ一つ。直前に出会った黒衣の少女が口にしていた”異能力”しかなかった。
私はカーテンを開け、窓の外に目をやり、道路沿いへ立つことを強く念じてみた。
すると先ほどまで室内にいたはずの私は、道路へと立っていた。
疑念は確信へと変わった。
どうやら俗に言う”瞬間移動”が出来るようになったらしい。視界に入った場所へ強く念じることで瞬時に移動できるという代物だ。
私は自分に宿った能力が紛れもない現実であると受け入れると共に、死を決意した人間にこのような能力を与えるあの黒衣の女の意図に疑問を抱いた。しかし考えてもわからないので、私は自宅へと帰ることにした。疲れたのでとりあえず休みたいと思った。
私を襲った4人については、当然の報いだと思っており、そのまま死に至ることを願った。正当防衛、いや神罰執行といったところだろうか。彼らはこれまでも、そしてこれからも被害者を生み出すクズそのもの。早い段階で駆除すべき害虫なのだ。
帰路、段々と冷静になった私は、今後どうするべきか、この能力で何かを成すべきかを考えていた。
しかし差し当たっての問題としては、自宅に待ち受ける両親(おそらく父は仕事でいないだろうから母親だ)に対してどのような言い訳をしてこの場をやり過ごそうかを考えていた。