Mortals~死に損ないの英雄道~:第3話『堕ちるより落ちる』

Mortals~死に損ないの英雄道~:第3話『堕ちるより落ちる』
藤宮莉璃
うわぁ、さすがに高いなぁ。学校の屋上よりもずっと高い。家も車も小さく見える。この俯瞰風景が私の人生最後の記憶か。。

老朽化に伴い取り壊しが決まった8階建てのとあるマンションの屋上にて、私は今まさに飛び降り自殺を決行しようと考えていた。

今までの人生、周りの期待に答え続け常に良い子を演じてきた。勉強では常に学年トップ、部活では陸上部のエースとして結果を出し続けて来た。

“おぉまた100点か!偉いぞ。莉璃はパパの自慢の娘だ。”

“県大会1位おめでとう!さすがだね、やっぱりっちゃんはすごいね!”

最初は嬉しかった。誰かに認められることが、こんなにも褒められる事が生きがいにすら感じていた。しかしいつしかそれらの言葉は、完璧な結果以外を認めない過度なハードルへと変わっていった。

“95点か、ちょっと油断したんじゃないか?ちゃんと勉強しなさい。”

“2位か〜、残念だったね。調子悪かった?りっちゃんならチームを逆転に導いてくれると思ったんだけどなあ。”

例えそれなりの成績を残したとしても、私へ告げられる言葉は、哀れみや侮蔑に満ちていた。

“りっちゃん遊びに行こう?”

そんな誘いも勉強の為にすべて断ってきた。するといつしか友達と呼べる人間はいなくなっていた。私の周りには、私自身よりも私の実績や名声に群がってくる人間ばかりだった。そう、勉強もスポーツも出来なければ私と一緒にいてくれる人間なんていなかった。

つい先日発表された大学受験の結果では、周りの期待に反し、最難関とされる大学に落ちてしまった。ちなみに滑り止めは受けておらず、この春から無職だ。(そもそも滑り止めを受けること事態、親に反対されていた。)

“どうするのよこれから!ご近所さんの間にも変な噂が立つじゃない!”

親とはそれ以来、気まずくなり私は自宅で居場所がなかった。そんな事情もあり、今日は自宅へ帰らずに深夜のこの時間を狙って廃マンションの屋上へと侵入したのであった。

藤宮莉璃
毎回毎回プレッシャーで、もう優等生を演じ続けることに疲れちゃったよ…。

人生最後の回想。追憶。私はこれまでの人生を思い返してみて、途中からなんら自らの意思で動いていないことに気づいた。周りの評価ばかり気にして、今では嫌悪を抱く両親に思考回路がそっくりだった。体裁ばかり気にして、何かを楽しんで取り組むということは皆無だった。ただただ我慢の連続だった。そこから逃げたかった。

藤宮莉璃
でもさっきの出来事は不思議だったなあ。なんだったんだろ。まあもう死ぬ私には関係ないのだけれど。

今から30分ほど前のこと。ここへ向かう途中、酔っ払った男性3人に絡まれていた私を助けれくれた人がいたのだが、立ち向かう彼の前に突然自動販売機が瞬間移動し、そのまま男達の上へと倒れていったのだった。

藤宮莉璃
まさか魔法使いだったりしてね。でもまぁ、おかげでこうして死ぬことが出来るんだし、せっかく助けてくれた彼には悪いけど、目的は果たさないと。さてと、そろそろ逝きますか。

屋上から地上を除くと、確実に死ねるであろう高さだと実感できた。足は震えている、あと1歩踏み出すだけで私の人生は終焉を迎える。

藤宮莉璃
この先どうせ堕ちていくだけの人生なら、自らの手で一瞬で落ちきってやる。奈落の底まで!

意を決して空へと身を投げ出した私は、落下して行く最中で意識を失ってしまった。

“ドンッ”

藤宮莉璃
…痛っ。あれ?生きてる。

目が覚めると、私は車のルーフの上に横たわっていた。どうやら背中から落ちたようだ。打撲はあるものの、骨折しているというわけではなさそうだった。頭からはかすかに血が流れており、意識は朦朧としている。

藤宮莉璃
なんで…こんなとこに車が…。さっきまでなかったはずなのに。

入念にチェックし、人の出入りがないことは事前の調査で明らかだったはずなのに、私の落下地点には車が止めてあった。一体こんな深夜に誰が訪れているというのだろうか。それとも私が見落としていただけなのだろうか。

ふと、視線を感じた。車のルーフの上だと言うのに、傍らに少女が立っていた。

???
おい死に底ない、その命交換してやろうか?
藤宮莉璃
なに?!誰?!

黒衣を纏ったまるで死神のような風貌の女は、私の命を1年後にもらう代わりに異能力を授けると言った。私はきっと、落下の衝撃で脳がショック状態を起こし幻覚を見ているのだと思った。

となれば、もはや女の言う戯言などどうでも良かったので、適当に返事をし、目を覚ますことに決めた。

藤宮莉璃
OKいいわよ、何でもいいわよ。どうせ幻覚なんだから。
???
承知。ではここに契約は完了した。

女の皮膚に赤い閃光が走る。その手に私の心臓は掴まれたような、鎖を巻かれたような感覚がした。私は薄れゆく意識の中、最後に彼女が発した言葉を耳にする。

???
紛れもなく現実だということを身にしみて実感するが良い。死に底ないよ。

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