Mortals~死に損ないの英雄道~:第2話『芽生えた異能』

Mortals~死に損ないの英雄道~:第2話『芽生えた異能』

目が覚めると、彼女は消えていた。時間にして3時間程が経過していた。

沖波
はぁまったく、妙な夢をみたな。いよいよ僕も首吊り失敗によって脳細胞に支障をきたしたかな。

いまだ続く首、眼球、そして脳内の痛みに悲鳴をあげつつ、汗まみれになった身体を洗おうとシャワーへ向かった。

沖波
結構…首に縄の跡残ってるな…。目も充血している…。痛々しいな。ん…何だろ?胸に何か…。

ふと目をやると、ちょうど左胸の心臓にあたる部分に、見覚えのないタトゥーのようなハート型の模様が浮き出ているのを見つけた。

沖波
な、なんだこれは…!こんなもの…いったいいつ…。

それは、確かに昨日まではなかった。
となれば今日出来たことになる。思い当たる節といえば一つしかなかった。
眠る直前、あの女に心臓を掴まれたような感覚が走ったことだ。

やはりあれは夢ではなかったのだろうか。
そんな夢か現か、俄には信じられない事実に困惑しながらも、僕はシャワーを浴び終えるとそのままベッドへ倒れ込み再び眠りへと着いたのだった。

再び目が覚めると時刻は午前2時。
無性に腹が減っていたので、食料を求めてコンビニへと向かった。道中、悪酔いをした男3人に絡まれ、いかにも困っていそうな女性を見かけた。

酔っ払いA
なあいいだろ姉ちゃん?明日は土曜なんだし、俺達と飲んでいこうぜ。
藤宮莉璃
いや、私急いでいるので…。
酔っ払いB
つれないなぁ、こんな時間にどこへ行こうって言うんだよ。こんな時間に女の子一人じゃ危ないよ?寂しいこと言わずにウチで一緒に飲もうぜ。
藤宮莉璃
いや、その、本当にごめんなさい!
沖波
やれやれ。厄介事に巻き込まれるのは嫌だから、ささっと目的を果たして家に帰ろう。

見て見ぬふりをした僕は、彼らのやりとりを横目に、コンビニへと向かい大好物のオムライスとハンバーガーを購入した。帰路、行きに見かけた男3人組と女性は既に姿を消していた。しかしその時、路地裏から女性の悲鳴が聞こえた。

藤宮莉璃
やめて!イヤ…離して!誰か助けて…!
酔っ払いC
静かにしろって!よし、口をふさぐぞ!
藤宮莉璃
(んん〜!んん!)

酔っ払いB
よし、このまま強引に連れていっちまおうぜ!

深夜ということもあり、人通りは全くなく、彼女の助けを求める声を聞いていたのは僕一人だった。

沖波
はぁ…どうするかな。とりあえず警察に…

持っていた携帯電話から通報しようとしていたその時、3人組の一人がこちらに気付き僕の手を蹴り上げた。

酔っ払いA
おいてめぇ、なに余計なことしようとしてんだ?偽善者ぶってんじゃねえぞ!

持っていた携帯電話が落ちた。拾おうとしゃがみ込んだ瞬間、男に踏み潰されて破壊されてしまった。
“偽善者”。確かに男のいう言葉は正しい。なぜなら僕は一度彼女を見捨てている。それにもし今彼女が連れ去られた後であったら、何事もなく家で食事をしながらテレビでも見ていたことだろう。それでも僕は、”助けて”と言った彼女の言葉だけは無視できなかった。

酔っ払いA
痛い目にあいたくなかったら帰って寝てろ。

そう言い捨て、背中を向け路地裏の仲間の元へ歩いていく男。僕は立ち上がると、右腕を振り上げ男の後頭部目掛けて振り下ろした。その時、胸のハートマークが赤く光った気がし、手に何か違和感を感じた。自転車が現れた。

酔っ払いA
…っぐぁぁ!

刹那、男は血を流して倒れていた。男は自転車の下敷きになっていた。

酔っ払いB
何だ!おいどうした!?

異変に気付いた男の仲間二人が駆け寄ってくる。倒れている男の惨状を見ると、怒りを顕にし、僕に殴りかかってきた。

酔っ払いC
てめぇがやったのか!許さねえぞ、死ねやぁ!

二人は酔っていたのか足元がふらついていた為、攻撃は簡単に避けることが出来た。振り返り再び襲い掛かってくる二人に反撃をしようと殴りかかった瞬間、またも胸のハートマークが赤く光り手に違和感を感じた。

酔っ払いB
…っぐぁぁ!

突然僕の手の前に自動販売機が現れ、二人をそのまま押し潰した。
路地裏で男達に絡まれ、さらに僕と彼等の争いの一部始終を見て怯えていた女性は、事が終わると逃げるようにその場を去って行った。僕もこの場に留まるのはまずいと思い、すぐさま自宅へと走り去った。

沖波
さっきのは一体…。

自宅に辿り着くと、僕は何が起こったのかを考え始めた。

最初の男に携帯電話を破壊された僕は、後ろから殴ってやろうと思い、手を振り上げた。その時、少し離れた路上に止めてあった自転車が僕の手の前に瞬間移動してきた。

次の二人の男へ反撃しようと手を振り上げた際、50m程離れた所にあった自動販売機がまたも僕の手の前に瞬間移動してきた。どちらも反撃の直前に僕の視界に入っていたものであり、頭の中ではこう考えていた。”あれでこいつらを殴ってやりたい”

沖波
どちらも奇妙な現象が起きる直前、僕の左胸のハートのタトゥーが赤く光った。あの女によってつけられた…。まさか、あの女が言っていた”異能力”って…

疑念を確信に変える為、僕は自室にて立証をはじめた。

“リモコン…来い!”

強く念じた瞬間、机の上にあったテレビのリモコンは僕の手が握ってた。僕は確信した。先程の奇妙な現象の正体が、先刻謎の女に与えられた異能力だということに。

そう、僕に芽生えた異能力の正体、それは”物体瞬間移動”であった。どうやら僕の視界に入った物体の中で、僕が強く念じたものは僕の前に瞬間移動するという能力らしい。

沖波
まだ信じられないけど、現実…なんだよなこれ。

僕は戸惑いながらも、この特異な能力を受け入れることにした。そして同時に自らの寿命があと1年であることも現実として自覚した。

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